東京公演1日め

ベルゲンでのツアー開幕の日は「逃げ出したい」と緊張したけれど、
来日公演開幕のこの日、この時は「なるようにしかならない」と腹を括っていた。

この場で起こる事は、今夜の主役に従うものであり、この場に居合わせた人達次第かもしれない。
この場において、自分は非力…と、また言ったら、それは嘘。
自分も突き動かされるに決まっている。そして、控えめながら、そうなった。


*


いつも通り、開演時刻にほぼ忠実。
19時30分を少し過ぎた頃からプレショービデオが流れ始めて、
最後、Lypsinka が "Out! Out! Out! ..." と叫ぶのが、まるで合図のようだった。
開演前、

  席の上に立つ、ステージに向かって走りだすなどの危険な行為は、
  他のお客様のご迷惑および怪我などのトラブルの原因となりますので、禁止致します。

…と、アナウンスされたにも関わらず、自分の視界の中あちこちから、
当たり前のように立ち上がって、当たり前のように前に進んでいくヒト達が見えた。
たいへん申し訳ないのですが、自分もそうする事を「当たり前」だと思っていました。
普通に歩いて行って、
スーツ姿のセキュリティの男性に軽く会釈しながらすれ違って、舞台中央の前まで到った。

露払いの Wayward Sisters が終わるまでに
舞台端は多国籍でいろんな年代でいろんな性別な人達がびっしり。
そんな、自分も含む無作法者達(ごめんなさい)と
がっさり空いた前寄りの席に移動してきた1階後方席の人達、
ルールに則って指定された席にいた人達。
そして、この有り様を見下ろすオットと稽古仲間を含む、2階席の人達。
いつも通り、今夜もいろんなヒト達がいる。

さぁ、主役のご登場。
e0076761_19260325.jpg
"Konnichiwa!"

第一声はご当地ご挨拶。なんというお気遣い。

第一曲目の Suedehead が始まる時、
ステージの上から目の前にモリッシーの右手が伸びてきて、
これって自分が応じて良いのかなと思いながら手を出したら、ふわっと握手してくれた。
気がついたら両手で握っちゃっていた。離せ、自分。このヒトはこれから歌うのだ。
めっさ笑われた。
  ごめんなさい。本当はもっと賢そうにご挨拶したかったんだけれど、
  自分にはそんなの無理だ、諦める。

そんなことよりも…

ただひたすら、今夜のあのヒトをよく観ろ、よく聴け。
e0076761_19581962.jpg
"Arigato. Very happy to be here again, Tokyo."
だったかな…今夜は、
頭に血が上り過ぎて短期記憶に自信がない。←莫迦者の思い出話だから
e0076761_20075546.jpg
観るたびに、無駄なく柔らかくなっていく所作。聴くたびに、どんどん迫力が凄くなっていく歌声。
今日は今日で、今日もまた圧倒されている。いかん、語彙が追いつかない。

いつも言っている(書いている)けれど、歌う姿が素晴らしく素敵です。
たぶん、この言葉をこれから日曜日まで繰り返すんだ。
e0076761_16531137.jpg
しかしながら、
ただ "美しい" と、うっとりするだけで済む筈がない。

World Peace Is None Of Your Business の前、
"Did you see yesterday presidential debate? ahahaha..." わお、やっぱりその話題。
"It seem... Killery and Thump." ヒラリーもトランプも、そんな呼ばわり。
客席の誰かが "Horrible!" と叫ぶのを受けて、
"Horrible. That words what do thing, horrible, horrible, whole of people."
…あぁ、そんな。
そのあと、お客さん達との掛け合いが聞き取れなかったのだけれど、
今、アメリカを離れて日本に来たことは、自分達にとって "very worth" だって言っていたと思う。

  Oh, USA. So many people in pain...

先生、此処は「アメリカがクシャミをすると風邪をひく」と言われる日本ですぜ。
(そのあと、世界が肺炎になるらしい…古い言い回しだから、今なら顔ぶれは違うかな)
というよりも、先生。
今、槍玉に挙げられているのはアメリカですが、本当にそれだけなのですか?
続く Ganglord について "What on subject of USA." と言って背中を向けて1〜2歩退いた刹那、
ふっと客席を振り返った時の表情。あれは何だったんだろう。

…と、そーら始まった。
いつも通り、過剰に考えすぎて過剰に感じすぎる、おめでたい自分の妄想の暴走が。
もう駄目だ。


確か昨年5月のVivid LIVE から始まった、へんてこSpeedway。
Yo siempre seré fiel a ti
e0076761_21461234.jpg
初めて聴いて吹っ飛んでから1年ちょっと。
今では、デタラメな発音で Gustavo と mitsingen できるようになっている。なんてこった。
先生が歌う I'll always stay true to you が恋しくなってきているんだけれど…
気が付けば今夜もデタラメに歌っていた。楽しい。

初めて聴いた時は、言葉のあられもなさにオロオロした Kiss Me A Lot。
e0076761_21490613.jpg
今では、コンサートのたび、歌う姿にワクワクと心躍る。

心躍ったまんま、All You Need Is Me と First Of The Gang To Die とぐいぐい。
e0076761_13165445.jpg
そうだ、First of the Gang to Die 。モリッシー指揮によるサビの几帳面に正確な手拍子は、
バンドのアレンジじゃないかってくらい音楽に溶け込んでいた。
これって、此処だから出る音だろうか。
  オーチャードホールの音響はクラシック通からは賛否あるみたいだけれど、
  スピーカーを通した音の響きは素晴らしい函であるし、
  生の音(拍手)が上に抜けて間延びする現象は、この日は最高な演出だと思った。


そして、The Bullfighter Dies と Meat Is Murder とが続けて突きつけられる。
e0076761_23394447.jpg
「あなたはどう言い訳しますか?肉は殺人です」
Google 翻訳っぽい日本語ですが、柔らかい修辞なんてない、真っ正面な言葉の鋭さ。


だんだん、自分の左右や後ろから、ふつふつと沸騰した感情だか思考だかがもうもうと
昇華されていくような、そんな光景が繰り広げられていくのを呆然と眺めていた。
これを「熱狂」と呼んで良いのかな。
e0076761_17415538.jpg
自分の左隣2人先にいたS君が、弾かれたようにステージに上がっていった。
セキュリティに羽交い締めにされながら右手を差し出したのに対し、モリッシーが笑顔で
握手を返す光景には惚れ惚れしちゃった。これは彼自身の物語であって、
私のなんでもないんだけれど、今この瞬間は自分の目で見えるものなにもかもが愛おしい。
  彼といちどだけ面識ある我が母がこの光景を見たら、仰天するであろう。

アチョーッと終わった Everyday Is Like Sunday の後、
2階席にいた英語がまったくできないオットも
「ブルース・リーの名前を言っていたよね」と言うくらい印象的だったお喋り。
"I know very well, that Bruce Lee was not from Japan. I do know.
But he was very nice. And do you know he could not swim.
Did you know? Do you care? I do.
Because he was super human could do everything, but could not swim.
Here's... Wonder force."
  かなり言い回しを取り違っている気がする…最後は Wonderful だったか、掛詞か。
  モリッシー先生には、自分の英語音痴を伏してお詫びしたい。
  いや、相手は赤ペン先生じゃないから…
e0076761_19302242.jpg
李小龍は泳げなかったとか、自転車に乗れなかったとか、
川を泳ぐシークエンスがある「略奪された100人の花嫁」はスタントだったとか、
そういう話を読んだことがある。
でも、何にもできない自分には、やっぱり李小龍は雲の上のヒトです。

貴方だって、他の誰にもできない事を遣ってのけてきている。←ここで書いても、詮無い
e0076761_00592890.jpg
何故みんなモリッシーに触れようとするんだろうって不思議だった。
たった4年ちょっと経って、今、自分はその中の1人になっているという、不思議な因果。
モリッシーも、舞台前に詰め寄った人達を指差したり声をかけたりしながら、
握手をしたり、手を掴ませたり、相手をよく見ている。
外界から見たらこの有様は秩序を外れた混沌かもしれないが、
舞台の上と下とで絶妙な調和ができあがっている。そんな風に思う。

この光景に Jack The Ripper が符号してくる…
e0076761_01220078.jpg
そして、アンコール。
e0076761_01243155.jpg
"With this song, yes... we say Sayonara."

えーっ!やだーっ!というドヨメキを宥めるような "See you again, tomorrow." のお言葉が続く。
「明日も来い」って意味ですか。「明日も来るんでしょ」って意味ですか。
e0076761_23135553.jpg
What She Said でお別れ。
明日が当たり前のように来るとは限らないんだけれど…ちゃんと生きていれば。
e0076761_01381839.jpg
シャツトスは無し。
「続きは明日」って意味ですか。
e0076761_01470381.jpg
アウトロ Death が終わって、拍手がわぁっと湧いて…その気持ち良い残響と共に終了。
もとい、終わったんじゃない。Morrissey Japan Tour 2016 が始まった。
e0076761_23461540.jpg
ロビーには、アニマルライツセンターさんのパネル展示。
e0076761_01465452.jpg
海外公演では PeTA さんのリーフレット配布に遭遇するし、
「あなた、牛乳を飲むなんてとんでもない。ちゃんと学びなさい!英語は読めるでしょ?」と
両手いっぱい冊子の束を渡されて、ぎゅうぎゅうと言い諭された事などありますが、
こんなにモリッシーのビジュアルを使って
「知ってほしい」と熱を帯びて訴えてくる展示を自分は見たことがない。此処、撮影スポット。


Intro: Wayward Sisters / Klaus Nomi
1. Suedehead
2. Alma Matters
3. You Have Killed Me
4. Ouija Board, Ouija Board
5. I'm Throwing My Arms Around Paris
6. World Peace Is None Of Your Business
7. Ganglord
8. Speedway
9. Kiss Me A Lot
10. All You Need Is Me
11. First Of The Gang To Die
12. The Bullfighter Dies
13. Meat Is Murder
14. Everyday Is Like Sunday
15. The World Is Full Of Crashing Bores
16. You're The One For Me, Fatty
17. How Soon Is Now?
18. Jack The Ripper
Enc. What She Said
Outro: Death / Klaus Nomi


Thank you for everything, Mr. Morrissey. You are really back to Japan.
I’m proud of me myself, because I know you, your songs and words...
giving me energy and wisdom.
No more could wish for.

また明日。


*


この後、合流したオットの第一印象は、ただ「凄かった」の一言。
あれが "アーティスト" と呼ばれる人の業前(わざまえ)なのか、と。

もう1人、初めて "Morrissey" を体験した稽古仲間からは
「堪能した」とメッセンジャーが飛んできた。いわく、
「モリッシーの歌もバンドの演奏も素晴らしかった」
「Meat Is Murder については共感できないけれど、主張・表現は伝わった」
という内容。プレショービデオからアンコールまで、あっという間に感じたそう。

自分とは異なる主義・思想に対峙した時、気に入らない相手に遭遇した時、
「嫌い」と避ける・遠ざける人のほうが多いだろうし、人間の反応としてはそのほうが
普通だけれど、
我が周りの人達はたいてい「興味ある」と真正面から突っ込んでいく。
そして、試行錯誤の後に丁度良い間合いを取って、相手を"生かす"。
  稽古中は「斬ろ」「打て」「突け」さんざん言うのにさ…

なぁーんて、そんな事も改めて思った夜でした。
思考と感情はいろんな方向に飛んでいく。今夜も。



please kindly note*
© 2016 Yukiko Nakagawa / Original images are stored in Flickr
These photographs of "Morrissey" are just memories taken by NON-professional
photographer audience, me.
Most importantly, Mr. Morrissey’s right of portrait has precedence over my copyright.
(But I know I can NEVER photograph him perfectly)
Thank you & So sorry.


※9/29追記:
2016年9月29日(木)Bunkamura オーチャードホールでの公演は当日券あり。
18:30から会場当日券売場(エントランス右側)で発売。
全席指定12,500円(税込み)。

モリッシーの後方支援、もとい、広報支援としてはまったく機能していない拙ブログが
こんな事を書いても詮無いのですが、
'Morrissey Japan Tour 2016' について
「行こうか迷っている」「熱心なファンでもないので恐れ多い」ならば、
行かれてはどうでしょう?
  「チケット代を出せない」あるいは「来日したのを知らなかった」というならば、
  致し方無いし、縁が無いのかもしれないけれど。

勿論、
私は私、貴方は貴方だから、決めるのはご自身です。

ただ、インターネットの言説空間を眺めていて、ちょっと気になった。
明日以降、
「行きたかった」「行けばよかった」と言っても、もう取り返しがつかないから。



by snowy_goodthings | 2016-09-28 21:30 | 鑑賞記


日常瑣末事記録


by Yukiko I. N.

プロフィールを見る