Thinking About All Things I Perceived In Skopje.

「Enter the Dragon」の有名な台詞
"Don’t think. feel!
It’s like a finger pointing away to the moon.
Don’t concentrate on the finger, or you will miss all the heavenly glory.”
…っていうのは、
まったくその通りであることは、自分自身、武芸稽古者としての
拙い体験によって思い知っているのに。
しかしながら、どうしても彼処で観た(見た)事・聴いた(聞いた)事、
そして感じた事について考えずにはいられないのです。

まるで学園祭のような、
音楽と歓声がぐわんぐわん共振する無茶苦茶な雰囲気は潔い心地良さ。
それと、ちゃんと覚悟はしていたんだけれど、
歌いたい歌を存分に歌い上げて去って行ってしまう姿を見送った時には、
この瞬間まで居合わせることができた満ち満ちた熱っぽい気持ちと、
待ち焦がれてきた瞬間がとうとう終わる冷えていく気持ちとがぐっちゃぐちゃ。
それらは全部、これまで経験した通りだったんだけれど。
今は、何か何処か、いつもと違う。
必死で勉強したのに、全問回答できないテストみたい。←変な喩え

コンサートの翌日、スコピエの街を歩いて、
モリッシーと合気道のポスターが並んで貼られた塀の前で
インド人のおじいちゃんに「人類皆兄弟」みたいな禅問答を投げかけられ、
ピンクルビーのペンダントを買おうと入った宝石店のマダムには
マケドニアの民族、国家の誇りと一緒に、
「愛と平和」について物語られ、
そのたびに前夜に聴いた歌やお喋りが頭ん中で自動再生されて鳴り響く。

子供の頃から片想いしていたブカレストでの体験は、
素晴らしく美しかった。それに対し、
スコピエでの体験は、凄まじく奇妙だった。

そりゃあね、どんなに考えたって、
普遍の真理なんか自分は見つけられっこないんだけれど。

コンサート前日、スコピエに着いた夜、
腕や腹にどわーっと蕁麻疹が出てきて、それは痒いというより痛くって、
だから自分が此処まで来た事に自分なりに”意味”とか”価値"とか
見出さないとやっていられない。

"歌う姿を見られる場所に居合わせたい”って
単純な欲望と衝動に付き従った結果は、自分にはちょっとした一大事だった。
あー、もう。


*


2015年のヨーロッパツアー最終公演地は、
マケドニア(旧ユーゴスラビア)の首都スコピエ。
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マケドニアと聞いて思い出すのは…
「アレキサンダー大王」
 ただしこの歴史上の偉人が生誕した地はギリシャのペラって場所らしい。
 そしてマケドニアという国家とマケドニア人という民族の定義には
 激しい異説がある。
「マザー・テレサ」
 コルコタでの救済活動が有名で、インドで国葬されたけれど、
 生誕地はスコピエ。
「丹下健三」
 1963年にあったスコピエ大震災後の復興都市計画の中心人物。
 その計画はすべて実行されなかったみたいだけれど、
 現在のスコピエ中央駅は丹下健三の設計である。
…かなぁ。

それと、
今年の初夏頃から日本でも盛んに報道されている、
シリア難民が故郷を去りヨーロッパを目指す道のりの途中にある土地だってこと。

日本を出る前、何人かの友人知人達から「心配ですね」という言葉を何度か貰った。
お気遣いはありがたいと感謝しつつも、
その言葉の隙間に見える、よくわからないモノを気味悪がって遠ざけようとする
"敵意"めいた感情の揺らぎが、気持ち悪かった。
そりゃ、自分だって不安はあった。
出発のずいぶん前から外務省から「海外安全情報メール」がじゃんじゃん届き、
過剰じゃないかってくらい渡航のリスクを警告してくれていたから。
でも、
自分が行く先は、日本と少し違う暮らし方をする人々が日常生活を送っている街。
それだけの事なのだ。

外つ国を旅すると、自分の常識が打ちのめされる事がよく起こる。
でも、それって面白い。立ち直って「面白い」って思えるだけの経験に
することができるから。その方法が、みっともないほど拙いやり方であっても。
だから気にしない。


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…この露天市場は何だ?
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今は21世紀だよね?
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会場のСРЦ Кале(SRC Kale)は街の中心から歩いて10分足らずの場所にある
ハンドボールを中心としたインドアスポーツアリーナ。
実際に見た印象は、”町の体育館”。本当に、
"Великанот на британската и светската музичка сцена”
(Giant of British and world music scene)がここで歌うの?

…歌うらしい。
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ヨーロッパ中から、
ヨーロッパ中を駆け巡ってモリッシーを追いかけている人達がいた。

なかなか信じられなかったけれど、
建物の中ではステージが組み上げられていた。
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ここでやるんだ。

爆弾物探知犬がやって来て、会場内をチェックしていた。
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薄い壁と天井からだだ洩れてくるサウンドチェックとリハーサルの音を聴きながら
待つこと数時間。日が暮れて、19時過ぎに開場。


後から新聞記事で見たけれど、観衆はマケドニア在住者だけでなくて
隣接する国や地域、ヨーロッパ各国および遠隔地からの来訪者が目立ったんだそう。
周りを見回すと、おそらくマケドニア語ではなかろう言葉が聞こえてくる。
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かく書く自分だって、遠隔地から来た1人に該当する。
いろんな、国籍も民族も仕事もなにもかも多様なヒトが、
みんながみんな揃って同じ目的でこの狭い体育館の中にいるという妙。

過去を紐解けば、お互い殺しあった時代があった国のヒト達かもしれない。
現在だって難しい関係にある地域のヒト達かもしれない。
そんな事をねちねちと言い出したら、例えば
日本とアメリカとイギリスは先の大戦では枢軸国vs.連合国だったじゃない。
いかんいかんいかん!今、この場所で
自分の存在意義をどう定義するっていうんだ。
冷戦時代生まれでノンポリな私にだって、
プライヴェイトにパーソナルな葛藤もあれば、
パブリックにソーシャルな葛藤もある。それらを
ごっちゃにして搔き回した中で、
自分の居場所が何処にあるのか、迷う時だってある。
自分で自分が解っていないのに、
周りのヒト達について察し始めたって、自分には負いきれない。
自分には今この瞬間しかない。今がすべて。


チケットには20時開演とあったけれど、
チケット発売時の主催者告知の通り、21時に開演。
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今宵、モリッシーの第一声は
"Здраво, Здраво, Добра вечер.”

一昨日のブカレストでの第一声もルーマニア語で”Salut.”って挨拶。
そして二の句の”Bucharest, be my guest.” が
その直前のブタペスト公演の使い回しだったことは、日本にいながら
インターネット越しに氏を追いかけるファンの方々から教えていただいた。
ルーマニアとハンガリーとの間には、暗くて浅い川が流れている
(お互い"親しい"燐人同士とはいえない)から、
最初それを知った時はぞっとしたのだけれど、
もしかしたらその事も踏まえてのご発声だったのだろうか。
深く繊細な思慮の発露かもしれないし、
直感的な鋭い投擲だったのかもしれないし、
全然そういった深読みは無意味かもしれないし。

それで思い出したけれど、
2012年に恵比寿ガーデンホールで聞いた自己紹介とかさ。いや、
私には解らない、まったく解らない。

自分は"モリッシーのファン”とは名乗れないんだから、
モリッシーについて「かく在る存在」という定義が解らない。
ファンと呼ばれる方々が、氏について希望も不満も綯い交ぜに述べたり、
氏の歌の聴き方や解釈について正解・不正解を論じる場面に接した時には、
自分はぼぉーっと思考停止になるしかない…やめておけ。
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セットリストは、ブカレスト公演から1曲減って順番が入れ替わった構成。
リハーサルで You’ll Be Gone が何度か聴こえたり、
意味深長な数小節をアカペラで歌っていたり、
Action Is My Middle Name をフルコーラス歌うのが聴こえたりしたのだけれど、
本番ではすべて無し。
もしツアー締め括りの此処で歌われたら、辛かったかもしれない。これは巡り合わせ。
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ブカレストと同じく、
Suedehead から始まり。でも、同じ歌である筈なのに、どれもこれも、
今夜はずぶっと骨太く勢いが猛烈。
благодарам, благодарам, благодарам…

Meat Is Murder の最後、
バックドロップに現れる"What is your excuse now?”がご当地仕様で
"Кој е вашиот изговор сега?”と投げかけられて、
終わった時の聴衆のざわめきはみしみし地鳴りのよう。
体育館って場所のせいだろうけれど。
で、次の瞬間、Everyday Is Like Sunday で大喜びの大歓声。
皆、情緒不安定じゃないかって勢いで、感情は乱高下させられる。
自分はいまだその修辞に戸惑うことがあるんだけれど、なんかやけっぱち。
引っ掻き回されていく。

もーう、この瞬間は何が何だか解らない。
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歌声はびゅんびゅん頭上を飛んでいき、
合間に短いけれど頭ん中に引っ掛かるお喋りが降り注ぎ、
気づいたら、 What She Said 。あぁ、終わってしまう。
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そしてアンコール。
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予想していた通り、締め括りの挨拶はご当地公用語で別れを告げられた。
ブカレストでは上手く聞こえなかった”さようなら”を、
ご丁寧にもジーンズのポケットからメモを取り出して読み上げていた。

“Пријатно”

今夜は完璧でした。言われてしまった。
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1 Suedehead
2 Alma Matters
3 Kiss Me A Lot
4 First Of Gang To Dies
5 Speedway
6 Ganglord
7 Staircase At The University
8 World Peace Is None Of Your Business
9 How Soon Is Now?
10 I’m Throwing My Arms Around Paris
11 Istanbul
12 The World Is Full Of Crashing Bores
13 You Have Killed Me
14 Oboe Concerto
15 Meat Is Murder
16 Everyday Is Like Sunday
17 I Will See You In Far-Off Places
18 The Bullfighter Dies
19 What She Said
enc: The Queen Is Dead

スコピエ公演が終わってしまいました。
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コンサートの中盤くらいだったか、
自分の頭越しにモリッシーと握手をしていた男性の腕の根元を振り返ってみたら、
身の丈185cmくらいのめっさ格好良いおじさまだったんで、驚いた。
そういや、
終演後に「モリッシーが握手してくれたんだ」と感激を語ってくれたセルビア人の彼とか、
シャツファイトに「混ぜてくださーい」と走っていったら
「良いよ、ほらー」と既にほとんどがズタズタになっている襟と前身頃を差し出してくれた
おそらくマケドニア人の白髪の優しい彼とか、
隣で泣き叫んでいたトルコからパパと一緒にやって来た少年とか、
「今夜は僕が List Of Lost にサインを貰ったんだよ」と見せてくれた
彼とか。
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誰も彼も男性ばかりだった。
今日は"メンズデー"だったんだろうか。←意味不明
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例によって「コンサート最高だったー、オレ達を撮ってくれー」とカメラに向かって
ニコニコとポーズを作る地元っ子お兄さん達もいたし。
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…君たちを撮った写真を、オレはどうすれば良いんだ?
また会えるかもしれないけれど、もう会えないかもしれないのに。
彼らの生涯において、今夜は唯一のモリッシーとの邂逅かもしれないし、
そしたらもう会えない。しかしながら、
全然違うきっかけで再会するなんてことが、絶対無いとは言い切れない。
どうなるかしら。


時間は巻き戻せない。
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ヨーロッパツアーが終わってしまいました。
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前にも散々そう思ったけれど、
モリッシーはとても優しいけれど、決して甘やかしてはくれない。
今夜ここで観た(見た)こと・聴いた(聞いた)事、感じた事については
自分でなんとかしなければ。
考えずにいられないし、考える時間はいくらでもある。

さんざん殴られて蹴られた末になんとか立ち上がったら、ふわっと背中を押された
…今はそんな気分です。←えぇ、無理に理解してもらわなくても結構

そんでもって、
終わったばかりなんだけれど
またMorrisseyが歌う場所にいたくなる。次はいつ、それができるだろう?
あのおじさんはご自分の人生を謳歌して、どんどん前進して行ってしまう。

2012年5月に恵比寿ガーデンホールで言っていた
“... but we should live and return Japan.”その言葉をねちねちと覚えている。
きっと、そんな人は日本中にわんさといる。
それが実現するのか、実現するならいつなのか。はたまた、実現しないのか。


世界の何処かで歌っているんだろうって思えるだけでも充分なんだけれど、
やっぱり、どうしても、願いたくなる。
またこんな夜を過ごせますように。


by snowy_goodthings | 2015-10-16 23:15 | 鑑賞記


日常瑣末事記録


by Yukiko I. N.

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